2011/05/26

InDesignによる欧文組版の基本操作その2

前回はコンポーザについて説明しました。今回はベースラインに関する説明をします。
また、前回の説明でふれた「欧文合字」について補足説明がありますので、こちらも一読いただいて、役立てていただければと思います。

ベースラインは「文字設定」「段落設定」「環境設定」「テキストフレーム設定」の4箇所それぞれに設定機能があります。私たちが普段使用している日本語版InDesignには、英語版にはない「日本語組版向け」のたくさんの設定機能があります。ここを整理すると、欧文組版に対する機能がクリアになります。

文字設定でのベースライン 
文字揃え
InDesignの「文字パネル」のプルダウンメニューにある「文字揃え」の設定をします。
「文字揃え」には下記のように6つの項目があります。この中の赤枠以外の5つは、すべて和文組版用の設定です。つまり、欧文組版をする時は、赤枠の「欧文ベースライン」を選択するだけでOKです。 読み込んだ文字テキストをオールセレクトし、「文字揃え」の「欧文ベースライン」をあててください。


段落設定でのベースライン 
InDesignの段落パネルのプルダウンメニューを表示させます。この中の赤枠で囲んだ箇所が、ベースラインに関連する項目です。
行送りの基準位置
まず「行送りの基準位置」を見てみましょう。「行送りの基準位置」にマウスをあてると、下記のような項目が表示されます。
この中の赤枠以外の3つは、すべて和文組版用の設定です。つまり、欧文組版では、赤枠の「欧文ベースライン」を選択するだけでOKです。

※英語版InDesignには日本語設定はありません。自動的に「欧文ベースライン」設定になります。そのため、上記の「文字揃え」「行送りの基準位置」というメニューは存在しません。


グリッド揃え
次に「グリッド揃え」です。「グリッド揃え」にマウスをあてると、下記のような項目が表示されます。
この中の赤枠以外は、すべて和文組版用の設定です。
欧文組版では、赤枠のどちらかのみを使用し、他は使用しません。
それでは、どちらを使用しましょうか…。

a. 「なし」を選択する場合
「なし = グリッド機能不使用」ということです。文字パネルやコントロールパネルで行送り設定を行いたい場合はこちらを選びます。
赤枠のところで、行送りを調整する。

基本的にはこの3点、
  1. 文字揃え=欧文ベースライン
  2. 行送りの基準位置=欧文ベースライン
  3. グリッド揃え=なし
 のみ設定をしておけば、OKです。

以下、引き続き「グリッド揃え」について説明します。

b. 「欧文ベースライン」を選択する場合(=グリッド機能を使用する)
「欧文ベースライン」を選択する場合は、グリッドを使用して組版する場合です。グリッドの詳しい設定の仕方などは別の機会にし、ここでは「どこで操作するか」のみ説明します。 少し複雑ですが「こんなのがあるんだ…」という程度に読んでいただければ大丈夫です。

b-1.「ドキュメント全体」グリッドを設定する
日本語組版では、下記の場所で設定しますが…

欧文組版用のグリッド設定は、「環境設定」にあります。
設定画面が表示されます。
ここで設定されている「欧文ベースライングリッド」のガイドを表示しましょう。「表示」メニューより「ベースライングリッドを表示」を選択します。

選択をすると、下記右側のように、現在の設定状況のガイドが表示されます。
「グリッド揃えなし」にしていたテキストに、「グリッド揃え」の「欧文ベースライン」をかけると、もともとテキストに設定されていた行送りの情報は無視され、設定されたグリッドにベースラインを揃えて行送りされます。
グリッド揃えを「欧文ベースライン」にすると…

b-2. 「テキストフレーム」に直接グリッドを設定する
ドキュメント全体としては1種類のグリッド設定しかできませんが、テキストフレーム個別にグリッド設定をすることができます。InDesignメニューの「オブジェクト」から「テキストフレーム設定」を選択します。この中の「ベースラインオプンション」で設定できます。
この設定をしたテキストフレームについては、ドキュメントグリッドではなく、テキストフレーム設定のグリッドが適用されます。

以上です。

補足:欧文合字について
前回のコンポーザの説明の例で、欧文合字についてふれました。例では「The」の「Th」の合字のオンとオフについて扱いましたが、セリフ書体では「Th」の合字をすると読みづらくなります。現状、Opentypeフォントを使用してInDesignの「欧文合字」設定をオンにすると、自動的に「Th」も合字になってしまいます。セリフ体では「fi」「fl」「ff」「ffi」「ffl」の5種類について合字を使い、「Th」については避けたほうがいいかもしれません。「Th」だけ「欧文合字」をオフにするには「検索・置換」機能を使うと便利です(詳しい方法はまた別の機会に説明します)
 ※ご指摘くださった小林章さん立野竜一さん高岡昌生さん、ありがとうございました。

2011/05/18

InDesignによる欧文組版の基本操作その1

段落設定(1) コンポーザ
InDesignでは、フレームグリッドや文字組アキ量設定のような日本語組版用にとても優れた機能が搭載されています。実は欧文組版についても、とても役立つ機能が備わっています。これから数回にわたり、キレイで効率的な欧文組版のための機能とその使い方を紹介します。

キレイで効率的な欧文組版をするためには、InDesignでは、「段落設定」「文字設定」「環境設定」それぞれについて、基本的な設定をします。まず、「段落設定」のメニューの設定について、1つずつ解説していきます。
※使用される原稿は全てが欧文で、和文が含まれないことを前提とします。

欧文単数行コンポーザ/欧文段落コンポーザ
InDesignには、文字データに必ず設定がかかることになっている、4つの「コンポーザ」があります。欧文組版ではこの中の「Adobe欧文段落コンポーザ」か「Adobe欧文単数行コンポーザ」のどちらかを使います。
  
 「コンポーザ」は適確な日本語訳が見つからなかったのか、InDesignのメニューでは、カタカナ表記でそのまま使用されています。コンポーザを辞書でひくと色々な意味がありますが、その中の「収拾する=収める」という日本語に置き換えると、何を意味しているかわかりやすい思います。

「単数行コンポーザ(single-line composer)」は1行ごとに単語をうまく収める、「段落コンポーザ(paragraph composer)」はその段落の中で単語をうまく収める、ということになります。
「Quarkやテキストエディタ(ワープロ)のように特に何も気にせず1行に入るところまで文字が流れ込む」という方式が「単数行コンポーザ」です。

「段落コンポーザ」は、InDesignの画期的な機能の1つで、「その段落内にバランスよく単語が収まるようにInDesignが自動で単語の送りをする」という設定です(つまり、ベテランのTypesetterを失業させる機能でもあります…)。

1行1行こだわりをもって組版したい場合は「単数行コンポーザ」を使い、手詰めでバランスをとりながら組版するといいのですが、長文の場合は思い切って「段落コンポーザ」を使い、「バランスの悪いところを修正する」という方法で組版すると、 8割がた満足のいく組版が、短時間でできると思います。「段落コンポーザ」を使った微調整のテクニックは、また今度、解説いたします。

ちなみに「日本語コンポーザ」と「欧文コンポーザ」は、その言語に対して設定状況が大きく異なります。特に、日本語の段落に欧文コンポーザをかけてしまうと、日本語独自の組版機能である「ルビ」「禁則処理」「文字組みアキ量設定」が無視されてしまいますので、日本語では必ず「日本語コンポーザ」をあてます。

欧文に「日本語コンポーザ」をあててしまうと、どのような問題が発生するか?
下の写真を見てください。

左が「欧文段落コンポーザ」、右が「日本語段落コンポーザ」です。点線はテキストフレームの枠です。いかがでしょう? 赤線ところ、「欧文合字」がはずれてしまいました。
※「欧文合字」とは、「fi」「ff」など、ある文字の組み合わせの場合に、その文字がつながったような形の文字を使います。この文字のことを「合字」といい、通常欧文では「合字」を使います。
ここでは、コンポーザの説明のために「Th」の合字を使用しています。OpenTypeフォントを使用した場合「Th」の組み合わせも合字になってしまいますが、この「Th」の合字は避けたほうがいいようです。検索・置換などを利用して「Th」の合字は解除することをおススめします。

そして、何よりも大きな違いは、フレームから1行落ちてしまっていることです。
下記の写真を見てください。 こちらは「欧文コンポーザ」の方です。
 文字をオールセレクトした状態ですが、InDesignが1行をどのレベルまで意識しているか見てください。特に一番下の行の「g」のところ、ディセンダライン(gのベースラインの下の足の部分)までの高さまで1行として認識しています。そのおかげで、点線のフレーム枠からgのディセンダの部分がはみ出していますが、ここまでの高さを1行として認識し、このフレームにしっかりおさまっています。

これに比べて、下の写真は「日本語コンポーザ」の方ですが、一番下の「catalogue」の「g」の部分を見ると、ディセンダ部分は1行の行の高さからはみ出していて、gのディセンダ部分が行内ではないと判断されていることがわかります。そのため、その下の「interesting」の「g」が行の高さの中と見なされず、フレームから行あふれとなってしまいました。
この例では、よく見ないとわかりにくいですが(cemeteriesのあたりがややわかりやすい)、 フォントの持つメトリクス情報(文字と文字の間の詰め具合の情報)にも、日本語コンポーザではバラツキが発生します。
このような4〜5行程度の組幅のせまいものでしたら、あまり気にせずに読むことはできますが、これが、書籍やannual reportのようなある程度組幅や文字量のあるものになると、その差が大きく表れて、欧米人が読んだ時には雑な組版に見えてしまい、その版元や企業の信頼度にも影響してしまいます。
また、作業する方も、天地のマージンに対して、ディセンダーラインを1行内と認識して流し込めるほうが、組版作業が効率的です。

欧文テキストの組版をする際は、ぜひ「欧文コンポーザ」を使ってください。